グローバルな人材になるために


OPCでは、様々な海外でのお仕事を紹介しています。
海外で活躍するために、グローバルな人材になるためには、どのような資質が求められるのでしょうか。昔の雑誌を整理していたら、ちょうど良い雑誌が出てきました。アエラ2013年12月2日号より、ご紹介します。
世界で働ける5つの能力
「ベトナムにおけるこのオフィス用品の市場規模は、約26億円です」
日本企業の海外進出などをサポートする調査会社「プルーヴ」代表の森英朗さん(37)は、オフィス用品メーカーの担当者を前に、そう言い切った。ベトナムのオフィス用品市場の詳細なデータなど存在しない。森さんが現地の会社を自ら訪ねて回り、積み上げていった数字が根拠になっているのだ。
その調査は、森さんの「突破力」なしにはできなかっただろう。調査案件の受注前からベトナムに乗り込み、現地で飲食を重ねながら人脈を構築。信頼できる現地のパートナーを見つけ、現地語で書かれたネット情報を読み込む。
そのうえでパートナーとともに、大企業から中小企業まで、ベトナムの会社をひたすら回るのだ。いきなり会社の扉をたたき、中に入れてもらったら、満面の笑みであいさつをする。
「日本人です。どんなオフィス用品を使っていますか?」
取り出してきたオフィス用品をおおげさにほめると、気分よく次々に見せてくれる。時には社長自らが応対してくれて、オフィス用品へのニーズを語ってくれることもあった。こうして50社以上を訪問し、集めたデータを精査した。最終的には、各オフィス用品の販売予測までする。森さんは言う。
「いつも背水の陣のつもりで、とことんやりきる。だから現地の会社や生活に身一つで飛び込んでぃけるし、そこまで踏み込むから人脈も築けるのです」
2007年に森さんが起業したプルーヴは、いまアジア圏18の国と地域まで調査対象を増やし、現地パートナーは86社にもなる。社員は5人。それぞれが常に約10個の案件を抱え、アジアを飛び回っている。
プルーヴ代表森英胡さん(37)
1998年に慶厖義塾大学を卒業し、印刷会社や教育研修会社を経て、2007年にブルーヴを起業。「広げた風呂敷を本物にするためにやりきります」
◆ビジョンはシンプルに
いま多くの企業がその育成に力を入れるグローバル人材。世界を舞台に活躍できる人材をどれだけ確保できるかが、人事最大の課題になっていると言ってもいい。リクルートワークス研究所所長の大久保幸夫さんはこう指摘する。
「古くは『国際化』という言葉で、何度かグローバル人材へのニーズが高まるタイミングがあった。今回の盛り上がりは、リーマン・ショックで多くの日本企業が、グローバル化するしか生き残る道がないと痛感したことが大きい。新興国で新事業を築き上げられるような人材はもちろん、国内でも世界や外国人に目を向けて働ける人材を、いま企業は必要としています」
世界を相手に実績を残せる人材とは、どんな能力を待った人たちなのか。グローバルに活躍する人材にはどんな共通点があるのか。各社の「グローバル人材」の実力を追った。
アサヒグループホールディングス国際部門に所属し、いまは韓国の現地法人に理事として出向している浅井裕さん(41)は、08年9月、着任してすぐにこう発破をかけた。
 「(輸入ビールで)シェアトップを取りましょう」
当時、同社が展開していたスーパードライのシェアは、ミラー(米)、ハイネケン(蘭)に次ぐ3位だった。そこから一気に1位を狙うと宣言したのだ。浅井さんはこう振り返る。
「文化や考え方が異なる海外で組織を動かすには、まず具体的でシンプルなビジョンや目標が必要です。そのうえで、いかに現地社員に自主的に動いてもらえるかが、成功のカギになる」
◆社員を信じて任せる
ビジョンや目標を提示し、そこまでの到達方法については、現地の社員に任せる。「委任力」が結果を生むと考えている。
「アイデアを出してください」
「やりたいことを持ってきてください」
そう呼びかけて、提案を待つ。あがってきた提案に、アサヒとしてのノウハウや自身の経験から、アドバイスを加えてリスクを減らす。時には研修として日本に出張させ、日本独自の販促手法などを「発見」してもらう。結果として、現地社員が自ら考えた施策が高いモチベーションによって展開されていく。
浅井さんが着任して以降、日本食レストランだけでなく、すべての大手小売りチェーンにスーパードライを置けるように。消費者の目に触れる機会が格段に増え、マス広告の効果も一気に出やすくなった。韓国駐在4年目となる11年、輸入ビールでシェアトップを実現した。浅井さんは言う。
「社員を信じて任せることで、韓国人の熱さを引き出せたのだと思っています」
アサヒグループホールディングス国際部門副部長 浅非裕さん(41)
1996年に甲南大学を卒業し、アサヒビール入社。横浜支社厚木支店で営業を担当した後、99年から国際関連の部門を歴任。 2011年から現職。
◆信頼関係を構築する
海外でゼロから会社を立ち上げる場合、問われるのは「構築力」だ。リクルートで人事部や経営企画部などを経験してきた舘康人さん(35)は06年10月、上海支社の設立のため中国に渡った。国内地方都市での営業を希望していた舘さんに、
「もっと遠いところがある」
上司にそう告げられてから3週間後のことだった。
「中国語も全くわからない状況で同僚と2人で現地に乗り込んだが、いまやアジア全域で300人の社員を抱え、13の拠点を展開するRGF HR Agent Groupを作り上げた。舘さんはこう振り返る。
「ブレずに、目的と意図を愚直に伝えていくことが大切だった。それと即断即決。日本の本社におうかがいを立てていては、事態がどんどん進む。自分がすぐに決断していく必要があった」
正念場だったのは10年。それまで日本型の業績変動幅の少ない給与制度だったのを、より早くリターンを求める傾向がある中国人にあわせ、成果主義型に切り替えた。ところがその変更が反発を呼び、当時43人いた社員が17人にまで減ってしまった。だが舘さんは、会社に残ろうとしてくれた社員にとことん向き合い、意図を説明した。次第に賛同が広がり、新たに入社を希望する人も増えてきた。結果、生産性は1.5倍になり、中国人社員はいまや200人にのぼる。事業の立ち上げに必要なのは、信頼関係の構築なのだ。
「成功と失敗の繰り返しですが、わかりやすく、自分の考えを伝えていくことで乗り越えてきました」(舘さん)
RGF HR AgentGroup(リクルートのアジア現地法人)マネージングディレクター舘康人さん(35)
2002年に慶応義塾大学を卒業し、リクルート入社。経営企画部などを経て06年10月、上海支社の設立に参画。13年4月から現職。アジア地域を統括する
構築力と委任力でタイ、北米、欧州を舞台に成果を積み上げてきたのがカルビー欧州・ロシア課長の有馬るねさん(38)だ。入社5年目で赴任したタイでは、現地法人で研究開発チームの立ち上げと、タイで販売する商品の開発を手掛けた。北米部では、米国展開の見直しと将来的なビジネスプランの作成に携わった。
「自分が担当する部門だけでなく、商品が開発されて消費者に届くまでの全体像を俯瞰して理解していなければ、海外でプロジェクトを作り上げることはできない。そして一人でできることは限られるから、信頼できるネットワークを構築し、任せてしまうことも大切です」
いまは、欧州進出の実現可能性を探っている。現地の食文化は?調達できる原料は?ビジネスパートナーは?効果的な販売ルートは?すべてが自分の判断にかかってくる。
◆出張時に話し込む
時には自分に足りない要素にも向き合わなければいけない。欧州での人的ネットワークが欠けていると考えた有馬さんは、今年4月から有給休暇を使って1ヵ月間、英国のビジネススクールに通った。管理職経験者ばかり約50人のクラスにアジア人は2人だけ。そんな環境で、ネットワークを作っていった。
三菱重工業火力発電システム事業部の菅野悦史さん(36)は、火力発電所で使うガスタービンのアフターサービスを世界に売り込んでいる。毎月のように海外に出張し、時には世界をほぼ1周して帰国することもある。
ライバルは米ゼネラル・エレクトリックや独シーメンス。ひとつの契約で数十億~数百億円にもなる案件をいかに獲得するか、世界の巨大企業を相手に戦っている。主戦場のひとつが中国。この数年、毎月のように入札が行われ、菅野さんはそこで30件以上の受注に貢献してきた。
やはりネットワークが頼りだ。日本で自分の席に座っていても、世界各地の同僚とつながっている。出張に行けばなるべく話し込むようにし、その人がどんなキャリアを積み、どんなモチベーションを持っているのか知るようにする。
「いろいろな人のアイデアがなければ、世界では戦えません。バックグラウンドの違う人たちの意見をもらい、その集大成として企画書を書きあげます」
完成されたノウハウが日本にあっても、新たな技術情報は世界に散在している。それらを共有できなければ、新しい提案は生まれない。世界の人脈に浸透していく力がなければ、海外ではプロジェクトを構築しえない。
◆わかりやすい話し方
さまざまな国籍のビジネスマンが混在するグローバルな舞台で何かを成し遂げようとするとき、「浸透力」が問われる。経営共創基盤パートナーの川上登福さん(40)は、日本企業の海外進出や新規事業開発をサポートしている。
数多くのグローバルリーダーを目の当たりにしてきた経験から、こう指摘する。
「マジックはありません。私もそうですが、多様なバックグラウンドを待った人たちに自分の考えを伝えるために、きわめてシンプルでわかりやすい話し方をします。相手が理解しやすいように、同じことを伝えるのにも、3通りくらいの言いまわしを用意しておきます」
日本企業の米国進出をサポートした際には、まずは徹底的に粘った。中小企業約200社を回り、ドアをノックして歩く。その時に本質を突いた提案をし、数字を交えてシンプルに伝えることが大切になる。パワーポイント30枚の資料ではなく、1、2枚の資料でシンプルに説明できなければ、本当に伝えたいことが相手に届かない。
「そのために、思考そのものをシンプルにする必要もある」
三菱商事新エネルギー・電力事業本部の鈴木圭一さん(44)はこれまでに、欧州の部品メーカーのバイアウトや日本企業による米国企業買収のアドバイザリー業務など数々の案件を手掛けてきた。いまの部署では、海外での再生可能エネルギーや火力発電の事業投資を推進している。常に4、5力国の関係者と交渉をしながらの仕事。突破力が求められることもあれば、人脈を張り巡らす浸透力が勝負のカギを握ることもある。
そして最後の詰めは「交渉力」がモノを言うと感じている。それは単に語学力の問題ではない。
「交渉相手に刺さるのは語彙力や比喩力。そしてある意味ちょっと鈍感になって、ストレートに思いを伝えること。相手がストンと腹落ちする言葉を投げかけて、相手をその気にさせることが大切です」
◆連帯感を持たせる
難航したフランスの電力会社との価格交渉。年度末ぎりぎりまで長引いた交渉の最後に。
「今日が3月末最後の営業日だ。俺は今夜のフライトで東京に帰る。このディールをお前とやりたいが、こればかりはどうしようもない」
相手もディールを成立させたい。同じサラリーマンとして、「年度末最後の営業日」の意味もよくわかる。大企業ならではの時間的な制約や年度ごとの予算配分の仕方について共感もある。「お前とやりたい」と投げかけて連帯感を持たせる。そうした要素を積み重ね、価格交渉をまとめあげた。
「失敗したディールもたくさんあります。グローバルに活躍するにはさまざまな能力が必要ですが、自分のスタイルに合わないものもある。常に好奇心を持って新しいことに挑戦し、その実戦の繰り返しのなかで、自分なりに磨いていった」(鈴木さん)
外資系金融機関などを経て投資会社「プルーガ・キャピタル」を創業した古庄秀樹さん(35)にとって、シンガポールに投資運用会社を設立することは必然だった。少子高齢化が進む日本では人口が減り、市場が縮小する。一方で成長性が高いアジア市場がすぐそばにある。アジア市場をとらえようと、11年6月、シンガポールに拠点を構えた。
◆少し先を読む
海外で成功するためには突破力、浸透力、交渉力、構築力、委任力のすべてが必要だというが、さらに「洞察力」が求められると考える。
「あらゆる能力を駆使したうえで、ケーススタディーや自らの経験を踏まえて少し先を読む。洞察力がなければ、変化の激しいグローバルでのビジネスは乗り切れないでしょう」
人材開発会社「コーチ・エイ」の執行役員、塚本弦エイドリアンさんはグローバルに活躍する人材の典型的な動作を、別の角度からこう分析している。
「何かの決断をする前に、それぞれの国の文化や考え方について理解を深め、その国やその会社で働く人たちの考え方ややり方を認める。さらに、自分の考え方ややり方について、現地の社員からフィードバックをもらう。そのために対話を深める。そうやって現地の社員を巻き込み、成功していくのです」