二大地震を見据えて出た整備方針


2014年4月に国土交通省が示した地震のための整備対策。
今後のインフラ整備の進路を示すレポートを、以下ご紹介します。
二大地震を見据えて出た整備方針
2014年4月、国土交通省は首都直下地震と南海トラフ巨大地震に備えたインフラ整備などの計画を示した。強い揺れに対する備えと大規模な津波に対する備えが柱となっている。この計画を見れば、今後のインフラ整備の進路が浮き彫りになる。
国土交通省は2014年4月、二つの巨大地震に備えた計画を取りまとめた。「首都直下地震対策計画」と「南海トラフ巨大地震対策計画」だ。13年12月に施行した南海トラフ地震対策特別措置法と首都直下地震対策特別措置法の趣旨に沿って、具体的なインフラの整備方針やソフト面での対策などを示したものだ。これらの方針を読み解くと、14年度以降に実施される巨大地震対策の事業の方向性が見えてくる。
 
いずれの計画も、巨大地震に備えて中長期的な視点を踏まえながら事前に取り組んでおくべき対策を整理している。その視点とは、「強い揺れへの備え」と「巨大な津波への備え」だ。そして、インフラの種別を例示しながら、具体的な対策を列挙した。
 
列挙された対策は、二つの地震ともほとんど同じだ。例えば、堤防や重要輸送拠点施設、下水道施設の耐震・液状化対策や津波に対する粘り強い堤防の整備などが代表例だ。
◆巨大地震対策はこれから加速
しかし、早期の対応が求められる地震発生時に応急的な活動を行うための準備に目を向けると、少し違ってくる。「二つの震災で実施すべき対策の重み付けは異なる」と、国土交通省防災課の宮武晃司・首都直下地震対策官は言う。
例えば、首都直下地震では、人口が密集する都市ならではの安全対策や首都機能の維持という観点を重視している。人口密集部の対策としては、木造住宅密集地での大規模火災に備えて、延焼遮断帯として機能する道路の整備を挙げた。
首都機能の維持という観点では、代替機能の確保が難しい施設では地震後に致命的な被害を受けず、簡易な補修で一定機能を回復できるような耐震対策を講じる。羽田空港の滑走路の耐震化や京浜港における岸壁の耐震化などが、これに相当する。鉄道事業者が管理する主要駅や主要路線についても、17年度末までの耐震対策を促していく。
 
他方、緊急輸送網の強化という視点で、首都圏3環状道路の整備推進をうたった。20年に開催される東京五輪への対応も視野に入れられており、五輪を見据えたインフラの被害軽減策が進みそうだ。
 
南海トラフ巨大地震で特に重きを置いている項目は、短時間で押し寄せる津波に対する対策だ。まずは短時間で津波が到達するエリアにおいて、避難路や避難場所を重点整備していく方針を掲げた。粘り強い堤防の整備をはじめとした堤防強化によって、津波被害を軽減する方策も示している。
被災が想定されるエリアには、山間部も少なくない。こうした場所では、広域かつ大規模な土砂災害や河道閉塞といった現象に対する交通網の寸断や二次災害を防ぐ取り組みに力を注いでいく。
 
巨大地震に備えた対策は、これから確実に加速する。次ページ以降では、大規模地震に対応したインフラ整備に着手した取り組みのうち、技術的に新しい発想を生み出した事例を紹介する。
 
前例のない施工技術や設計の考え方の採用は、今後のインフラ整備を考える際の大きなヒントになる。加えて、次ページ以降で示す事例は、新技術による災害対策のためのハード整備という枠にとどまらない内容を持つ。資金調達や利用者との関わりといった、今後の社会インフラが直面する課題を解決するための新しい価値の創出を図っているのだ。
現地の砂で造る初のCSG防潮堤
現場近くで入手できる砂れきに、セメントや水を混ぜてつくるCSG。この材料で構造物を造れば、材料を入手しやすく、打設にブルドーザーや振動ローラーといった汎用重機を使える分、経済性が高い。ダムエ事で実績を積んできた技術だ。
 
このCSGを主要材料として、海面から高さ約13mの防潮堤を延長17.5kmにわたって造る工事が、浜松市で動き始めた。防潮堤整備によって、南海トラフ巨大地震で想定されるレベル2の津波が押し寄せた際の背後地の被害を、浸水面積で約7割削減。木造住宅の全壊確率が上昇する深さ2m以上の浸水となる宅地面積は、97%減る見込みだ。
 
レベル2の津波に対応した防潮堤を整備するエリアには、既に防潮施設が存在する。その高さは、一般的な防潮施設の整備基準となるレベル1相当の津波高さよりも高い。通常であれば、粘り強い構造に改修するような一部の取り組みを除いて、ハード対策をしなくても済む場所だ。
 
にもかかわらず、事業を進めているのは、浜松市で創業した住宅メー力ーの一条工務店が同社グループとして、3年間で300億円を寄付すると申し出たからだ。さらに高い津波にも対応できるような防潮堤などを整備することを求めた。
 
この申し出を受け、一条工務店グループと静岡県、浜松市の三者が協議。2012年6月に、一条工務店側の寄付金をもとに県が防潮堤などの工事を実施、市が工事に必要な土砂の確保と県と連携した住民への説明を図ることで合意した。
 
その後、市は12年9月に市民や企業からの支援の受け皿となる津波。対策事業基金を創設。市民や企業からの支援を集めている。浜松商工会議所では、会員企業から5年間で50億円を集める目標を掲げ、寄付を募る。既に自動車メーカーのスズキが、5年間で5億円を寄付する方針を決めた。同会議所によると、14年4月の段階で1000件超の寄付によって、合計約11億4000万円を集められる見通しが立っている。
◆地元企業で施工できる
民間企業による寄付に始まった防潮堤の建設工事で、CSGを使った構造を採用した最大の理由は、現状の海岸沿いに保安林が広がっていた点にある。
一般的な土堤で整備すると、表面をコンクリートで被覆する必要がある。そうなれば、防潮堤を整備した箇所で保安林を再生できなくなる。保安林は、背後地に控えるまちへの飛砂や強い風などを防ぐという重要な機能を持つ。加えて、これまで貴重な環境資源として、市民に親しまれてきた。市民の生活に欠かせない存在だったのだ。
 
保安林の伐採を避けて、防潮堤の整備箇所を海側に寄せる方法もある。しかし、砂浜には貴重なアカウミガメの生息箇所が存在する。加えて、海岸寄りに防潮堤を設けると、高潮などによる洗掘リスクが増す。防潮堤を砂浜に寄せるのは、現実的な選択肢ではなかった。
 
一方、CSGで堤防の構造体を築けば、コンパクトに構造体を建設でき、その前面や背面への盛り土や覆土が可能になる。この構造なら、防潮堤の整備時に保安林を復元しやすい。 CSGの活用には、ほかにもメリットがあった。コンクリート構造物のように設計強度の管理が可能で、津波に対する抵抗力の把握が容易であるという点だ。
地元の企業でも施工が可能な点も大きなポイントだった。多額の資金を寄せた一条工務店は、防潮堤の整備では地域に根付いている会社の活用を要望していた。冒頭で述べたとおり、CSGは汎用機械を使えるので、地元の企業でも施工しやすい。
 
CSGの採用には、こうしたメリットがあったものの、この現場ではこれまでとは異なる配慮も必要だった。現場発生材として砂を用いたからだ。これまでCSGを用いた施工例が多いダムでは、現場発生材として岩を砕いた材料を使っていた。「現地発生材に砂を使った初のCSGで、防潮堤を整備する試みだ」。静岡県浜松土木事務所沿岸整備課の伊東信幸班長はこう解説する。
◆試験施工で地盤確認の手法を決定
新しい材料を用いるだけに、構造物の品質確認などの作業は欠かせない。そこで.Jこの現場では二つの工区を試験施エエリアに設定。本体施工を合理的に進める計画を立てるための情報収集などを目的として13年7月から工事を始めた。
 
一つ目の工区は西松建設・須山建設・中村組JVが担当、二つ目の工区は前田建設工業・林工組・中村建設JVが担当する。施工延長は前者が250m、後者が470m。契約金額は西松JVが4億9700万円、前田建設工業JVが4億9600万円だ。
 
試験施工で確認したのは、構造物として求められる1.2~1.8N/mm2の圧縮強度を確保できる材料の配合だ。施工現場から約30km離れた山から搬入される段丘堆積物や軟岩と、現場で発生する砂などとの配合に応じた材料の強度を把握していった。
 
その結果、現地発生砂の混合割合は、段丘堆積物を使う場合で20%、軟岩を使う場合で40%であれば、必要強度を満たせると分かった。「実際の構造物では、2N/mm2以上の強度で管理できている」(伊東班長)。
 
CSGを施工するための基礎地盤の強度確認も重要な項目だった。防潮堤が所望の性能を発揮するために、基礎地盤にはN値で15相当の強度が求められた。
 
地盤強度の確認のため、県は施工前に20ヵ所程度でボーリング調査を実施していた。しかし、これでは実際の施工を進めるうえで粗過ぎる。一方、数十メートル間隔でボーリング調査を行うのは、コストと時間の両面で負担が大きい。そこで試験施工では、もっと安くて簡易な地盤強度の確認方法を探った。
試験施工の中で実現|生があると確認できたのは、主に戸建て住宅を建設する際の地盤強度の確認で用いられているスウェーデン式サウンディング(SWS)を使った手法だった。地盤を掘削し、約2m分の砂が上に載った状態で実施したSWS試験で測定した地盤強度を使えば、N値に換算できる関係が判明したのだ。
 
「砂が上にない直上部では、応力解放が起こってうまく測定できない。平板載荷試験も試したがうまくいかなかった。この調査手法の確立によって、調査などに要するコストと時間を短縮できた」と、伊東班長は説く。試験施工では25m間隔でSWS試験を実施して、地盤強度を確認していった。
◆盛り土を型枠代わりに
施工には特殊な重機などを用いない。とはいえ、JVでの試験施工と今後施工する区間でのCGS製造の工事で兼務所長を務める前田建設工業の中島具威氏は、次のように注意を促す。「地域の建設会社での施工は可能だが、決して簡単な内容ではない。品質確保のためには、丁寧な材料管理や施工が不可欠だ」。
前田建設工業JVが担当した試験施工の現場では、以下のように防潮堤を施工している。まずは、CSGを打設する部分の両脇に、盛り土を構築する。 CGSは高さ30cmごとに振動ローラーで転圧して整備するので、その高さ分を盛り土して型枠代わりにするのだ。
CGSを打設する面は清掃しておく。異物によって打設面に弱点箇所ができないようにするためだ。そして、打設面にセメントペーストを散布し、ダンプトラックからCSGを下ろしてブルドーザーで敷きならす。
 
この際、2層に分けて踏み固める。敷きならしの後は、4t級振動ローラーで無振動2回、有振動8回の転圧を実施する。転圧速度は時速1kmを守る。転圧したCSGには散水して、養生シートで覆う。
 
延長50mに1ヵ所は、ひび割れを防ぐための目地部を設けておく。CSGの施工部にV字状の溝を掘って、そこにCSGからセメントを抜いたものに相当する材料を入れる。
◆広葉樹の植栽も試す
試験施工の区間では、14年度に樹木を植える検証も実施する。陸側の植栽については、海岸で一般的に使用されるクロマツを中心に植えるケースと、これまであまり使われてこなかった広葉樹を植えるケースの2パターンを確認する計画だ。
 
クロマツを主体として植えるパターンは、内陸側の松林が松食い虫などで衰退している事情を踏まえた。広葉樹を植えるパターンは、内陸側の松林が充実しているケースを想定。広葉樹を含む多様な品種を備えておけば、将来、病害虫などが生じた際に枯れてしまうリスクを分散できるという考えに基づく。
こうした植栽には、保安林として砂や潮の飛散を防ぐという日常生活上の機能以外にも効用がある。県と市が防潮堤整備に当たって設けた植栽計画検討会で、副会長を務める静岡大学防災総合センターの原田賢治准教授は、次のように説く。「津波が襲ってきた際に、保安林が津波の勢いを弱める効果を期待できる」。
さらに、緑には市民とインフラの関係を近づける効果が期待されている。例えば、県は樹木の植栽などには住民に参加してもらう考えだ。植樹やその後の樹木管理の一端を住民が担うことによって、インフラの整備や維持管理の効率化を図るだけでなく、将来にわたって防潮堤の存在意義を伝える機会に結び付ける。
 
多額の寄付を寄せた一条工務店側の要請を踏まえ、県は事業を急ピッチで進めている。土砂が順調に調達できたとして単純計算すると、4年程度での完成は不可能ではない。しかし、現段階では事業の完了予定時期は決まっていない。環境配慮のために調査中の箇所が存在し、ルートや構造が確定できないからだ。
同様の理由で全体の事業費も定まっていない。ただし、試験施工で確認できた条件で全体の工事が進めばCSGGと覆土の部分は約300億円で完成する可能性があると県はみる。そのほか、商工会議所などが音頭を取って集めている資金分は、植栽整備などに生かされる見通しだ。

 

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