悪夢の設計トラブル


どんな仕事も、設計業務は重要です。
グランドデザインが誤っていたら、どんなに一生懸命やっても間違った方向にいってしまいます。
今回は、建設業界における設計トラブルに関するレポート記事をご紹介したいと思います。行政側からの賠償請求も起こりかねない“設計トラブル”。
ポイントは、「条件明示は、発注者の責任」、「成果品の品質は、受注者の責任」です。
悪夢の設計トラブル
「経営を左右するリスク」の回避策を探る
大阪府と日本シビックコンサルタントが「設計ミス」を巡って鋭く対立している。これまでも、受注者の役割・責任分担の曖昧さが、数えきれないほどのトラブルを招いてきた。
それでも、発注者が受注者に億単位の損害賠償を請求し、受注者が真っ向から抗戦するケースが公になるのは極めて珍しい。
悪夢のような設計トラブルを「対岸の火事」と捉えるのではなく、改めて受発注者の責任分担やミス防止に向けた対策を議論し、経営を揺るがすリスクに向き合わなければならない。
◆「設計ミス」に億単位の請求
その設計トラブルが表面化したのは、2013年11月28日ころのことだった。
大阪府の松井一郎知事が会見で、「コンサルの設計ミスで阪神高速大和川線のトンネル工事に、41億の追加費用が発生した。責任を追及し、「大きな部分」については求償していく」宣言。億単位の賠償請求をほのめかしたのだ。
「コンサル」とは、日本シビックコンサルタントを指す。
この工事は、シード機の発進・到達基地となる深さ40メートル超のたて坑2基をニューマチックケーソン工法で沈設し、向かい合うたて坑間の230メートルを深さ40メートルまで掘削するというものだ。
側面の地盤を削り取られた2基にたて坑は支えを失い、背面の土圧と水圧の押されて内側に滑動、もしくは転倒する恐れもあった。
府は、ケーソンたて坑の設計を担った日本シビックコンサルタントが外力の設定などを誤る、「設計ミス」を犯したために、工事中の安定性が確保されず、このような事態を招きかねなかったと非難。工事が中断し、安全性を確保するために多額の追加工事が生じたと主張。
◆日本シビックは大阪府に反論
年間売上高18億円(13年3月期)の日本シビックコンサルタントは、賠償請求まではのめかされて混乱に陥る。翌日の新聞には、「設計ミス」の見出しとともに社名が躍った。シールドトンネル設計のパイオニアとしての信用は揺らいだ。
同社の松沢裕範取締役は、「たて坑の安定性は、他社が担当する開削区間の設計段階か、施工段階で検討することになっていた」と主張する。
しかし、設計に瑕疵はないと考える同社にとって、事態は最悪の状況へ加速する。弁明の機会が与えられないまま、府は同社が「過失により成果品を粗雑にした」として、13年12月19日から6ヵ月間の入札参加停止措置を講じた。同社は取り消しを求めたが、府はこれを却下した。
 
業を煮やした同社は14年1月15日、入札参加停止の取り消しを求めて大阪地裁に仮処分を申し立てた。そして、「あらゆる法的手段をもって厳正に対処していく」などと綴った資料をホームページに掲載。府との対決姿勢を鮮明するに至った。
◆舞台はランプと合流する開削区間
 
設計トラブルの舞台は、府の都市整備部富田林土木事務所が整備を進める阪神高速大和川線の「シールドトンネル区間」と、常磐東ランプが本線と合流する「開削区間」だ。
シールドトンネル区間は、冒頭で触れたたて坑2基を建設し、東西に上下線2本の本線を構築する。開削区間では、2基のたて坑に挟まれた延長約230mを深さ40mまで掘削して鉄筋コンクリート製の道路躯体を構築し、埋め戻す手はずだった。
日本シビックコンサルタントは06年12月、本線シールドトンネルやたて坑などの詳細設計を約2800万円で受注した。開削区間の詳細設計は、日建技術コンサルタント(大阪市)が約1950万円で受注。たて坑の建設と開削区間の山留め・掘削工事は、吉田組JVが約166億円で、開削区間の躯体工事は清水建設JVが約76億円で請け負った。
大阪府が主張する日本シビックコンサルタントの「設計ミス」が発覚した経緯は、次の通りだ。
吉田組JVが掘削工事を進める過程で、道路の躯体工事を受注した清水建設JVから、たて坑の安定性に対して疑問が投げかけられた。府が有識者に見解を求めると、このまま掘削を続ければたて坑の安定性が確保されない、との回答だった。
府は12年8月に進行中の掘削工事を休止。地下水位の低下や、2基のたて坑を支える床版を30mにわたって構築するといった安定化対策を決定した。古田組JVの工事を打ち切り、清水建設JVに残りの掘削と追加工事を任せることにした。
府は議会での答弁で、過去にも2回、日本シビックコンサルタントにたて坑の安定度について確認したことがあったが、同社は「問題ない」と回答したと説明している。
真っ向から食い違う両者の言い分大阪府は詳細設計業務の特記仕様書を示し、日本シビックコンサルタントが契約上の義務を果たさなかったと主張する。仕様書には業務遂行上の留意点として、「開削区間が隣接しているので、この区間との調整を十分に行い業務を進めること」などと記している。これをもとに、「開削区間を考慮してたて坑を安定した構造物として設計することが、契約に基づく同社の義務」とした。
また、同社が成果品として納めた検討書の中で、「たて坑の開削区間接合部側壁部は掘削され、土圧力i期待できなくなる」と記し、ケーソンの滑動などに関する検討結果を示したうえで、「安全であることを確認した」と記述していることも、「設計ミス」の根拠に挙げる。府の都市整備部事業管理室技術管理課の片木詳三統括参事は、「同社が開削区間を考慮した設計が必要だと認識していた証拠だ」と指摘する。
府の主張に、日本シビックコンサルタントは真っ向から反論する。
同社の松沢取締役は、「開削区間との接合方法に関する条件が未確定の状況で、工事発注に図面が必要だと急かされた。そこで、府との打ち合わせで『開削区間の工事がたて坑の安定性に与える影響については考慮しない』と説明し、了承を得て設計した」と言う。「受注者間で協議して進めろというが、発注者を抜きに話を進めるなどあり得ない。府が、各受注者の見解を調整できなかったことが問題だ」(松沢取締役)。
さらに府が「設計ミス」の根拠とした検討書について、同社の木戸義和技師長は「工法を選定するために実施した当たり計算の結果だ」と説明する。つまり、ニューマチックケーソン工法が成立するかどうかをたて坑の本格的な設計の前に試算した結果に過ぎない、というわけだ。木戸技師長は「大阪府は、自分たちに都合の良い箇所を抜き出して、我々に非があるというストーリーを作り出している」と憤る。
「府と当社、開削区間の設計者、施工者による協議で安定化対策の必要性について議論し、倒れないように『突っ張り』をしよう、といった対策を決めていた。議事録もある。なぜ、何ら対策を講じずに掘削したのか理解できない」(木戸技師長)。
◆大阪府は2月に数億円を請求
大阪地裁は3月31日、入札参加停止の取り消しを求める日本シビックコンサルタントの申し立てを却下した。同社は、4月11日に大阪高裁に抗告。徹底抗戦の構えを崩さない。「黙った瞬間にミスを認めたと思われる。高裁で何らかの疎明が認められれば、本訴に踏み切ることも考える」(同社の松沢取締役)。
トラブルは収束するどころか、本格的な法廷闘争に発展する公算が高まってきた。訴訟を検討しているのは、大阪府も同じだ。実は、府は2月28日に工事の遅延や追加工事に掛かる費用を、日本シビックコンサルタントに請求済み。両者は金額を明かさないが、数億円に上る模様だ。
大阪府の片木統括参事は「請求に応じてくれれば、裁判をせずに済むが」と話す。納付期限は4月末だが、日本シビックコンサルタントの松沢取締役は「とても承服できない」とし、4月中旬時点で請求に応じない方針を示す。府が損害賠償訴訟を起こす場合、5月20日に開会する議会で承認を得てからになる。
◆業務委託が抱える課題を内包
大和川線を舞台に、現在進行形で進む設計トラブル。当事者以外も、他人事として済ませることはできない。従来から指摘されてきた受発注者が抱える課題を内包しているからだ。これまで見てきたように、設計条件などを巡る双方の主張の食い違いは、受発注者の責任分担の曖昧さを改めて浮き彫りにしている。
「知事は設計にミスがあったから求償していくとコメントしているが、初歩的なミスを見抜けなかった大阪府にも瑕疵があるのではないか」。13年12月の大阪府議会では、発注者としての府の技術力不足や体制の不備を問う質問が、繰り返された。
ベテランの退職や職員数の削減に伴う発注者の技術力低下は、約1800人の土木職員を抱える大阪府でも例外ではない。府は、設計成果品については日本シビックコンサルタントに責任があると強調しつつ、若手の技術力向上や第三者の設計者によるクロスチェックの導入などを例示し、再発防止策をまとめる考えを示した。プロジェクトチームを設けて、2月から検討を始めている。
建設コンサルタント会社は、「設計ミス」を理由に途方もない損害賠償を請求される事態が現実になったことを、自覚しなければならないだろう。日本シビックコンサルタントの松沢取締役は「契約金額に比して、あまりにもリスクが大きい。仕事ができなくなる」と指摘する。
建設コンサルタンツ協会など4協会の建設コンサルタント賠償責任保険を取り扱うアールアンドディセキュリティがまとめた保険金の支払い状況をみると、1件当たりの平均支払い額は増加傾向にあり、12年には3000万円を突破している。目の前の業務が企業の存続を揺るがす多大なリスクをはらんでいることを改めて認識し、設計トラブルの防止に力を入れなければならない。
次ページからは、受発注者の役割と責任の分担に根差した課題の現状と対応策について、国や受発注者の取り組みを探っていく。
◆じわり進む「責任」の仕分け
「責任が曖昧なことが、品質低下の一因」。国土交通省はこうした考えで、設計ミスの防止や成果品の品質向上に対策を講じてきた。条件明示は発注者の責任で、成果品の品質は受注者の責任で。受発注者の責任の「仕分け」を徐々に進めている。
発注者が、設計条件をなかなか決めてくれない。しつこく催促すると、「設計者で決めてくれ」と言われたので、打ち合わせの際に条件を提示し、合意して業務を進めたはずだった。ところが、設計成果品の納品後に、提示した条件に関する不具合が発覚。発注者は「条件を決めたのはそちらだ」の一点張りで、責任を押し付けてくる。反論しようにも、明確な証拠が残っていない―。
もし、このような設計トラブルが起こったとして、設計者側か責任の多くを負わされる可能性が高いことは、想像に難くない。
◆受注者も「条件明示シート」を活用
「結局のところ、設計ミスを巡ってもめるケースでは、誰が条件を提示し、いつ、何を根拠に決まったかが明確でない場合が非常に多い」。オリエンタルコンサルタンツの青水滋取締役はため息をつく。「的確に設計を進め、成果品の品質を高めるためにも、条件を確認することは極めて重要だ」(青木取締役)。
そこで、同社が「設計ミスの防止」と「自衛」の両面から活用しているのが、国土交通省が作成した「条件明示チェックシート」。本来は、発注者側か設計条件や関係機関との協議の進捗状況などを記載し、受注者に提示するためのツールだ。
発注者による条件明示が不明確だったり、遅れたりすると、設計業務の履行期間を圧迫し、手戻りが生じることが多く、ミスの温床となりがちだ。そこで、国交省が2012年度から導入を進めてきた。
 
このシートは、道路詳細設計、橋梁詳細設計、樋門・樋管詳細設計、排水機場詳細設計、築堤護岸詳細設計、山岳トンネル詳細設計、共同溝詳細設計の7工種それぞれにある。
国交省北陸地方整備局が砂防詳細設計版を新たに作成しており、14年度から試行する予定だ。
 
オリエンタルコンサルタンツではこのシートを活用し、「いつ、どのような条件を発注者が示したか」を後から追跡できるようにしている。また、抜け落ちている条件があれば発注者に申し出て、詰めていく。同社は、受発注者が互いに活用することで、条件の漏れなどによる手戻りが大幅に減ると期待している。
◆発注者を律する対策に歓迎の声
このような対策は、「調査・設計等分野における品質確保に関する懇談会」(座長:小澤一雅・東京大学教授)における議論に基づいて、国交省が数年前から進めてきた。
条件明示チェックシートと同じく設計条件の明確化や共有を図るために、11年度から導入したのが受発注者による「合同現地踏査」だ。この仕組みにも、受注者からは好意的な声が上がる。
「例えば、山奥の橋梁を設計する際に、ザイルで崖を降りてまで詳細に現地を調査するのは現実的には不可能だ。それなのに、工事が始まって崖下で木を伐採すると、設計条件と地形が異なっていると分かり、発注者から『設計ミスだ』と言われて無償で修正を命じられることもある。できること、できないことを事前に共有できれば、そのような理不尽な指示はなくなる」(ある建設コンサルタント会社の幹部)。
今年2月28日の懇談会で、国交省は設計不具合の最近の発生状況を示した。同省が発注した設計業務を対象に着工前に実施する3者会議(発注者と設計者、施工者による協議の場)で指摘された設計不具合をまとめたものだ。
12年全月~12月と13年4月~12月に3者会議を実施した業務を対象にそれぞれの期間に発生した不具合の状況を調べたところ、以前から多かった「現場条件の設定ミス」に起因する不具合の割合は、「構造」と「施工」のいずれに関する事項でも減少した。国交省は条件明示の徹底や合同現地踏査の実施で、さらにミスを減らしていく考えだ。
 
設計条件にまつわるトラブルを避けるために、国だけでなく高速道路会社も手を打ち始めている。
西日本高速道路会社が13年11月に示した、「調査等請負契約における設計変更ガイドライン」は一例だ。条件提示の遅れなどに伴う設計変更について、変更条件や手続きの流れなどのルールを定めた。受注者が正当な理由で変更を申し出ても、「検討は契約の範囲内だ」などと、発注者が却下するケースがあったからだ。
中日本高速道路会社でも建設コンサルタンツ協会と意見を交換しながら、14年度中をめどに同様のガイドラインを作成する。同社技術・建設本部技術管理部技術管理チームの野村謙ニチームリーダーは「何かできて、何かできないかを示す。業務の進め方についても全般的に盛り込む。いつまでに誰が何をやるかを記録に残し、そのために工程をどう管理するか。社内の良い事例も取り入れたい」と話す。
◆「赤黄チェック」は実質義務化へ
現場条件の設定ミスによる不具合の割合が減少する一方で、単純ミスに分類される「図面作成ミス」の割合は、12年の42.3%から13年は54.5%に、12.2ポイントも上昇した。
国交省は単純ミスを減らすために、照査を徹底させる方針だ。あくまでも「照査は受注者の責任で実施する」と前置きしたうえで、実効性を高める仕組みを導入する。具体的には、13年度下期から全国約60の詳細設計業務を対象に「赤黄チェック」を試行している。
赤黄チェックとは、照査技術者が設計図面と数量計算害を照らし合わせて見つけた不整合などを赤色のペンでチェックし、担当者が黄色で消して赤色で訂正する、という伝統的な照査方法だ。
建設コンサルタンツ協会品質向上専門委員会で委員長を務める八千代エンジニヤリング内部統制室品質環境マネジメント部の宇佐美正好参与は、「昔は図面が青焼きだったので、目立つように黄色を使っていた」と説明する。問題がない箇所を黄色でチェックして赤色で修正するなど、会社によってやり方は異なる。
国交省も、細かな手法までは指定していない。成果品の納入時に照査の「痕跡」が分かる資料を提示できればいいとの考えだ。提示を求める分、照査費用は上乗せを認める。工種によって異なるが、道路の詳細設計では現状から50%割り増す。
試行では工種を分散させて結果を分析し、効果が高い場合は本格実施する。例えば、関東地方整備局では道路の詳細設計や樋門の詳細設計など4件を、近畿地方整備局では橋梁上部構造の詳細設計や河川護岸の詳細設計など5件を対象としている。
成果品の「責任」には警戒の声も 発注者が自ら設計する時代から、作業や計算の一部を外注する時代を経て、建設コンサルタントが発注者の指示の下、自らの裁量で設計する時代となって久しい。
長年にわたって曖昧だった受発注者の責任分担が、以前に比べて整理されてきたことに受注者はおおむね歓迎ムードだ。しかし、国交省が示すメニューには警戒の声も上がる。
例えば、「発注者による検査範囲の明確化」。ある建設コンサルタント会社の品質管理担当者は、次のように懸念する。
「要するに『発注者は成果品を検査するけれど、会計法に基づく検査範囲を超える部分は責任を負わない』という内容だ。品質確保は受注者の責任で実施するというが、その『責任』の範囲がよく分からない。今のところ、全て受注者側に押し付けられているように感じる」。
加えて注視すべきなのが、社外の第三者による照査制度。国交省は今後、本格的に検討を始める方針を示している。以前から俎上に上っていたが、ミスが発生した際の責任分担などが難しく、事実上、棚上げになってきた。
一方、東日本大震災の被災地で採用されたコンストラクションマネジメント(CM)方式のように発注者の技術力や人員の不足を背景として、建設コンサルタントに役割や責任を委任するケースも増えそうだ。
受注者は、徐々に進む責任の「仕分け」の行方と、新たな仕組みへの対応に注意を払う必要がある。
国が推進するミス回避チェック方式を活用しながら、設計トラブルによる莫大な事後請求を民間企業はどう回避するか。
そうはいっても、売上が欲しいのも事実です。
法的見地も重要ですが、日頃からの密なコミュニケーションと信頼関係の構築が、それ以上に重要です。

 

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