復興現場の実情


『復興が抱える不安』特集の続編です。
地元との軋轢、技術者不足、利害調整等、様々な問題提起がされています。
テレビだけではなかなかわからない実像が浮かび上がってくる、優れたレポート内容です。
「人口減少」を意識した土地利用が必要
多くの自治体が、防潮堤の背後に広がる低平地の使い方に悩む。
 
例えば、悩みの一つが防災集団移転促進事業(以下、防集事業)で買い取った土地の活用策だ。被災宅地は基本的に買い取り可能だが、地権者が希望しない宅地や工場・作業場の土地などは買い取りの対象にならない。そのため“飛び地”ができてしまう。また震災で広域的な地盤沈下を起こした土地は、利用するとしてもかさ上げしなければならない。かさ上げには漁業集落防災機能強化事業の制度を利用する方法がある。漁業集落の再興を図る事業限定ではあるが、かさ上げのほか生活基盤の整備などができる。
 
もう一つの方法が、防集事業の移転先の造成工事で発生する残土の処理場としての利用だ。搬入費は防集事業費でもつ。しかし、敷きならしや転圧までは費用を認められないので、宅地に造成するのは難しい。復興交付金事業で敷きならしや転圧が可能になった例もある。石巻市鮎川浜地区で、13年末に防集事業の基幹事業として、復興庁から認可された。跡地利用を明確にした場所だけ、転圧や敷きならしができる。
◆都市間競争が起こる懸念
被災地の復興計画の作成をアドバイスしている東北大学土木工学専攻の平野勝也准教授は、「自治体職員の多くが、人口減少の時代にあるという意識が乏しい。土地があれば有効に利用するのが当然と思っている」と話す。無駄に大きい震災公園の計画などは最たる例だ。 
「高台移転で市街地を拡大した分、“土地を減らずという発想が必要になる」(平野准教授)。野村総合研究所社会システムコンサルティング部の神尾文彦部長は、「漁業など土地に生業がない町では、高台移転が進んでも町に益を生み出すために精力的に土地を開発せざるを得ない。どうしても拡大基調になってしまう」と指摘する。 
被災自治体の職員には「隣の町よりも良い復興計画を立てて人をつなぎとめる、または人を呼んでくる」との思いが強い。そのため無駄に空き地を開発してしまう、悪い意味での都市間競争が起こる恐れがある。
利用減少下での復旧に議論紛糾
◆不安2  線路の行方
JR東日本の被災路線で、復旧の過程に大きな差が生じている。本復旧で既に工事着している路線、BRTで仮復旧している路線、バスで代行輸送している路線。利用者数が減少下にある鉄道の復旧はどうあるべきか。最終的な鉄路の行方をめぐってJRや沿線自治体の主張がぶつかり合う。
震災によって、JR東日本で東北地方を走る7路線が津波被害を受けた。そのうち八戸線を除く6路線約246kmの区間では、3年を経た今も運休状態だ。同社は震災直後に、「責任を持って復旧する」としたが、現状は路線によって復旧のロードマップに差が生じ始めている。
例えば、石巻線や仙石線は2015年に運転再開の予定だ。一方、山田、大船渡、気仙沼の3路線は復旧のめどがいまだに立っていない。
 
同社は被災路線の復旧に関して、四つの条件を提示。3路線の復旧に大きく立ちはだかるのが「乗客の安全確保」と「まちづくり計画との整合」という条件だ。
 
3路線はほかと比べて、流失した駅舎が多く、広範囲で被災した。復旧の具体策の検討では、「津波を防ぐ防潮堤がいつ、どのように整備されるか」、「復興まちづくりの計画で鉄道がどのように配置されるのか」といった周辺のインフラ整備とも密接に関連する。地域全体の復旧・復興と足並みをそろえる必要があるから、一筋縄ではいかないのだ。
「解決に時間が掛かり、被災した路線を何年もこのままにしておけば、住民に鉄道を使わない生活が定着せざるを得なくなる。せっかく復旧しても、使われなくなってしまう」と、JR東日本総合企画本部の熊本義寛復興企画部長は話す。
 
そうしたタイムラグを埋めるために、復旧までの応急的な交通システムとしてJR東日本が沿線自治体に提案したのがBRT(バス高速輸送システム)だった。
◆大船渡線、気仙沼線はBRT受け入れ
JRの提案を受け入れるか否か。沿線自治体の意見は分かれた。結局、具体化したのは大船渡・気仙沼の2路線だった。
 
2路線が走る気仙沼市の小川良直震災復興・企画課長は、「気仙沼線が不通になったことで、乗客の大多数を占める学生の通学などに支障が生じていた。そのため鉄道復旧までの仮復旧ということで受け入れた」と振り返る。代替交通の民間バスが不便だったことも要因の一つだった。
 
気仙沼線は12年12月から、大船渡線は13年3月からBRTを運行開始。専用道路整備率も上がっており、乗客は徐々に戻りつつある。
 
他方、本復旧に向けての調整は難航中だ。2月5日にJR東日本が公表した復旧費の概算額も、さらなる課題を突き付けることになった。気仙沼線の原状復旧費は300億円。一方、津波に対応すべく移設やかさ上げを実施して、沿線自治体のまちづくりと連携する形で復旧する費用は700億円に跳ね上がるというのだ。
JR東日本は原状復旧費の工面を表明する一方、残りの400億円には自治体や国の支陂を求めている。
一方、BRTの受け入れを拒否したのが山田線の沿線自治体だ。元々、民間バス会社2社による路線バスが充実しており、復旧まで路線バスを強化すればよいという結論に至った。
◆山田線は原状復旧費以外も工面
「復旧時期をJRは明言しておらず,先が見えないなかで受け入れられなかった。最初から「本復旧」の方がお金も掛からない」(岩手県大槌町の澤田彰弘総合政策部長)。
山田線の場合、JRが13年3月に示した原状復旧費は140億円。「安全」と「まちづくり」を考慮した復旧費は全体で210億円で、うち70億円は工面できる見通しが立ち始めた。自治体との調整で区画整理事業の盛り土上に線路を敷設するなど、復興交付金を当てにできそうだ。
しかし、この1月末に状況は新たな局面を迎える。JRが三陸鉄道に山田線を譲渡する意向を表明したのだ。三陸鉄道は1981年に発足した第三セクターで、47ページの図のように山田線の南北に連なって走る。山田線と一体的に運営することで経営コストが下がるというのが、譲渡提案の理由だ。
今後、一定期間の赤字補填や鉄道施設の保有形態、復旧方法など、検討すべき項目も見えてきた。
例えば、復旧方法では三陸鉄道と山田線の規格の違いが問題になりそうだ。山田線を単に原状復旧して移管すると異なる規格で維持しなければならない。規格を三陸鉄道に合わせて復旧して移管した方が、維持管理の負担は減る。
様々な問題が山積みで復旧までの道のりは長くなった。最終的な決断はまだだが、市町長らは前向きに検討する意志を表明している。
◆JRの利用促進に自治体が協力
3路線の行方に注目が集まる背景には、これらが震災前の時点で、乗客数減少の悩みを抱えていたことと無関係ではないだろう。
山田線は沿線人口の減少や鉄道駅付近の病院施設の移設などが影響して、震災前の輸送人員はJR発足時点と比べて約6割も減っていた。
 
JR東日本の被災路線復旧の条件には、「一定の輸送需要の存在」が盛り込まれている。人口減少下の時代に震災でさらに人が減り、復興後に震災前の乗客数を確保できないのは目に見えているからだ。
山田線については、同社は沿線自治体に利用促進策の検討を打診。関係自治体は13年5月から、利用促進検討会議を開いて議論を続けている。
 
例えば宮古市では、市役所を駅の近くに移転するなど、できるだけ鉄道を使いやすい環境をつくる計画だ。ソフト対策では、13年末から月に1度、市職員を対象に「ノーマイカーデー」を実施している。
 
JRの鉄道の利用促進に関して、自治体が主体的に関与する動きはこれまであまり例がなかった。地域交通に詳しい東京工業大学人間環境システム専攻の屋井鉄雄教授は、「利者が減少する全国の鉄道に波及すればよい」と期待する。
13年末に廃線勧告を受けた岩手県の岩泉線のように、災害で甚大な被害を受けて、従前の利用者が少なかったために復旧せず廃線に追い込まれたケ-スもある。今後、地方の鉄道の利用者減少が見込まれるなか、同様の事例は増えるだろう。
「日頃から、鉄道をどれだけ支えているか。地域を挙げて、利用者を増やす取り組みをしているか。今後、赤字路線を残すか廃止するかの判断では、そんな視点も重要視されるのではないか」(屋井教授)。
◆BRTのメリットも見えてきた
一方、仮復旧で始めたBRTに、新たな交通機関としての可能性を評価する声も上がり始めている。気仙沼線や大船渡線で導入したBRTは一般道を併用して走る区間が多く、定時性や速達性の面で鉄道よりも劣るとされていた。
 
しかし、13年9月時点で専用道区間を気仙沼線は路線全体の約40%、大船渡線は約30%まで整備し、速達性や定時性は向上。気仙沼線は今後、70%にまで整備する予定で、鉄道並みの機能を期待できる。
BRTならではの利点も確認できた。現在の運行頻度は、多い区間で既存鉄道の2倍以上に増大した。
そのほか、「BRTはほかのバス路線と相互直通できる点が優れている」と、都市交通などを専門にする横浜国立大学交通と都市研究分野の中村文彦教授は指摘する。例えば、既存のバス路線と組み合わせて山間部への直通便をBRTに設定することができる。また、仙台市など遠方にも、建設中の三陸縦貫自動車道の供用開始後にBRTバスの高速便を設けることも可能だろう。
 
ある鉄道事業者の幹部は、鉄路の復旧に次のような疑問を投げ掛けた。
 
「鉄道の被災区間の多くでは、人口減少や高齢化が進んでいる。鉄道を元に戻すだけで良いのか。形は変わっても以前より高いサービスを提供することで、公共交通機関の利用を促し過疎化の流れが少しでも止まるのであれば、それも一つの復興の形ではないか」。
◆不安3 切迫する覆工板不足
被災地で、生コンの次に不足が懸念されている資材が覆工板だ。リース会社への聞き取り調査で、今後、在庫の4倍以上の覆工板が必要になるという報告もある。資材不足の対策は、現場で「不足している」という声が聞こえ始めてからでは遅い。国も事態を重く見て、情報収集に乗り出した。
震災後、被災圸で長らく資材不足の代名詞となっていたのは生コンだった。官民がプラント新設や供給調整に苦心した結果、生コンの需給が均衡してきた地域もある。一方、新たに懸念されているのが覆工板の不足だ。
 
「覆工板不足で工事ができないという状況にはまだ至っていないが、今のうちに対策を練らなければ、お手上げ状態になる」。
仮設資材のリース会社、ヒロセの中村文明東日本復興本部副本部長はこう話す。同氏は、同業者で組織する重仮設業協会の活動として、震災以降、覆工板需要の情報収集を続けている。
仮設資材のリース会社、ヒロセの中村文明東日本復興本部副本部長はこう話す。同氏は、同業者で組織する重仮設業協会の活動として、震災以降、覆工板需要の情報収集を続けている。
例えば復興道路の一つ、宮古盛岡横断道路では今後の2年間で2万㎡の覆工板が必要になる見通しだ。また各地で堤防高が決まったことを受け、橋梁工事などの発注が本格化し始めている。河川や谷での施工となれば桟橋が必要で、覆工板が欠かせない。
同協会の会員各社への聞き取り調査によると、関東・東北地方で保有する覆工板の在庫は2013年10月時点で全保有量の15%を切っている。他方、既に受注済みの分と、引き合いなどで今後必要になる見込み分を合わせると、在庫の4倍超の需要が見込まれる計算になる 
◆まずは工事情報の収集で対処
不足する見通しを受けて、国土交通省も動き出した。
「これから発注する工事情報を細かく収集して、覆工板の今後の需給見通しをまずは把握する」と、東北地方整備局企画部技術管理課の鈴木之技術検査官は意気込む。
 
13年12月に開いた建設資材対策東北地方連絡会で国交省は、東北6県に対して、これから発注する工事で覆工板の納入や撤去の時期を報告するように依頼。覆工板はリース材として流通するケースが多いので、使用時期が集中しないように工事間で調整すれば、転用でやり繰りできるという考えだ。
震災後にいち早く不足が露見した鋼矢板で、同様の取り組みを先行して実施している。鋼矢板の場合は、発注者が輸送費をみる代わりに名古屋以東の遠隔地から調達することで品薄状態を解消した経緯がある。
 
覆工板も同じように遠隔地から調達できれば良いのだが、現状を見る限り難しそうだ。重仮設業協会の佐川知吉事務局長は、「豪雨災害などによる復旧・復興や補正予算による工事の発注増で、覆工板は全国的に不足気味だ」と話す。各地で覆工板をやり繰りするだけで精一杯という状況だ。
◆リースではなく買い取りを視野に 
全国的に覆工板の総量が足りないのであれば、メーカーは増産するのか。実際、産業振興(東京都江東区)のように、今年1月に新日鉄住金釜石製鉄所構内に覆工板の加エセンターを新設したメーカーもある。 
しかし、メーカーが増産に踏み切っただけでは事は収まらない。公共事業では覆工板は基本的にリース材だ。リース会社が事業量の増大に応じて、メーカーから覆工板を購入する必要がある。
現状で、震災復興の需要は永続的ではないとする見方が多数で、リース会社にとっては短期的に在庫を急に増やすことは経営上のリスクにもなる。数年間の償却(リース会社によって違う)が終わらないうちに余剰在庫を抱える恐れがあるからだ。
 
ヒロセの中村副本部長は「長い工期や海岸部での施工のように仮設の覆工板がスクラップになる可能性の高い工事で使う場合は、発注者などがメーカーから買い取る方法を国にお願いしている」と話す。
◆不安4 安全対策に黄信号
目立つ「基本がおろそか」な労災
「稼働する重機の周囲で立ち入り禁止措置を取らず、誘導員も配置していない」。法令の順守など、安全対策上の基本がおろそかにされた結果、労災につながる例が目立ち始めている。人手不足を背景に作業員から現場監理者まで、経験が浅い人が増えたと指摘する声もある。
今年2月13日、釜石労働基準監督署は、管内の建設工事現場で生じた労働死亡災害に関し、施工会社などを書類送検したと発表。昨年9月中旬に発生した事故だ。作業中のバックホーの近くで、高齢作業員がランマーを使った締め固め作業を行っていた際、バックホーのアームが突然旋回。その動きに驚いた作業員は思わず、ランマーから手を離した。反動で暴れたランマーのハンドルが腹部に当たって重傷を負い、4日後に死亡した。
この被害者は、二次下請け会社の作業員。同署は、釜石市内に本社を置く元請け会社と東京都内の一次下請け会社、および元請けの現場代理人、一次下請けの工事課長の計4者を労働安全衛生法違反の容疑で書類送検した。
「車両系建設機械を使う際は、周囲に立ち入り禁止措置を講じるか、誘導員の配置が必要。元請けも複数の下請け作業員の連絡・調整を行うべき義務がある。いずれも怠っていた」。
岩手労働局労働基準部監督課の高橋嘉寿満課長はこう説明する。
◆一斉監督指導で違反率70%超
右上のグラフは岩手、宮城、福島の3労働局が発表した労働災害の発生状況。労働者死傷病報告における死傷者数で、1月~12月の累計値だ。 2013年分は各労働局がこの1月、速報値として発表した。通常は、速報値の後に公表される最終集計値「確定値」のほうが多くなるもの。しかし岩手のみ、速報値ベースで建設業全体、土木工事ともに前年の確定値を上回っている。
建設工事の労働災害は一般に、工事量に比例して増減すると言われる。工事量の差を無視した地域間あるいは各年の単純比較は、あまり意味がない。しかし高橋課長は次のように話す。「昨年末に3局で実施した現場の一斉監督指導でも、岩手管内の違反率は70.7%と最も高かった。法令順守などの基本がおろそかにされている違反例が少なくない」。
同局では13年、従来の一斉監督指導に加えて、工事量の増加を見越した労災対策を複数実施してきた。例えば大型工事が多い地区などで、地元労基署が顧問となって施工会社の連絡協議会を設立し、互いに安全パトロールに出向くといった取り組みだ。それだけに危機意識は強い。
 
速報値ベースで労災発生数が前年より減少した宮城でも、警戒感は緩んでいない。「建設業全体としては前年より減ったが、土木工事での労災の減少幅は他の工種ほどではない。河川や道路、各所のかさ上げなど、増えてきた復興工事での労災が目立つ」(宮城労働局労働基準部健康安全課の昆野良久課長補佐)。
 
復興工事本格化の一方で、常態化・深刻化する人手不足。労災との因果関係を明確に示すデータはないが、無関係とは言えないだろう。「経験年数の浅い人や高齢者の被災例が目立つ」と厚生労働省労働基準局安全衛生部建設安全対策室の釜石英雄主任技術審査官は話す。
◆代理人・職長クラスも熟練度不足
深松組(仙台市)の林正次環境安全部次長は自社の現場のほか、仙台建設業協会などの活動として他社の現場に安全パトロールに出向くことも多い。「新規参入や若年の作業員など、経験不足から危険に対する認識が薄い人が各所の現場で増えたと実感している」と打ち明ける。
 
写真のように作業中の重機に不用意に近寄る人や、所定の資格保持者でも斜面で不安定な態勢でアームを旋回する重機オペレーター、玉掛け作業で危うい吊り方をする人なども見かけるという。
「震災前は重機の転倒事故はあまり聞かなかったが、今は増えている。熟練者なら行わない動作・操作をする人が目立つ」(林次長)。
 
作業員だけでなく、現場代理人や職長クラスの熟練度不足を指摘する声も多い。「例えば、現場のポスターなどに『墜落災害防止』と掲げながら、具体策を問うと不明瞭。教えられていないのが分かる」。やはり安全巡回指導に従事する建設業労働災害防止協会宮城県支援センターの千葉善三所長はこう話す。
同センターは、現場の技術者・技能者向けの安全教育活動にも取り組んでおり、11年度と12年度は新規参入者向けの講習に特に重点を置いた。13年度は重点対象を職長クラスにシフトしている。
また岩手労働局でも大船渡労基署が石巻労基署(宮城労働局)と合同で1月、三陸沿岸地域の工事に従事する職長クラスや作業員をターゲットにした安全セミナーの開催するなど地域を挙げて現場での安全意識の底上げに取り組んでいる。
◆ 「潜在化するメンタルリスク」 発注者の職員もストレスが常態化
「先の見通しが立たないことに、ストレスを感じている人が多い」精神科嘱託医として、岩手県や地元自治体の職員からメンタルヘルス相談を受ける岩手県立大学社会福祉学部の青木慎一郎教授は、このように話す。
「保健・福祉や商工・観光など一定の落ち着きを取り戻した部門もあるが、建設をはじめ水産、農林といった社会インフラ整備に関する担当部門では業務量が震災前の通常時より圧倒的に増えていることもあってか、職員からの相談が依然として減っていない」(青木教授)
人手や資材の不足による苦労、なかなか進まない用地買収、集団移転事業などに伴う合意形成、仮設住宅で生じる住民トラブルの収拾といった業務に強いストレスを感じる職員が少なくない。
「震災直後は組織全体で『無理をするな』と休息・休暇の取得を奨励していたが、復旧から復興の段階を迎えつつある現在は、部門や部署によってそうした配慮に差が生じているのかもしれない。ストレスが心身・行動の異常、ひいては精神疾患にもつながるという認識を共有して、互いにきめ細かく声を掛け合うことが、今だから大切と言える」。青木教授はこう指摘する。
◆不安5 復興後の建設業
『震災前よりも競争激化の兆候』
復旧・復興需要で被災地の建設業は潤っているものの、楽観視はできない。需要は数年程度。その後は仕事は激減し競争の激化が予想されるからだ。被災規模が比較的小さく、「復興後」にいち早く移行した仙台市では、震災前と同様、またはそれ以上に不毛なたたき合いが始まっている。
被災地の建設業にとって復旧・復興事業は、長い目でみると一過性の需要だ。いずれ仕事は激減する。復興後の建設業の在り方を今から考えておかなければ、少ないパイを争ってきた震災前の状態に逆戻りするのは目に見えている。
「復興後」の業界の姿を先んじて示しているのが、仙台市だ。例えば舗装分野では、震災に伴う復旧工事が2013年度までにほぼ出尽くしたと言われる。その結果、通常工事で入札価格1円単位での競争が激化。同額入札による抽選も増加し始めた。
その仙台市が13年に発注したある道路工事の入札結果で、地元業界に激震が走った。復興後の受注競争のシビアさを予感させる出来事が起こったのだ。
この入札案件で注目が集まったのは、抽選の対象となった会社の複数が、ある全国規模の建設会社X社と近い関係にあったことだ。
 
「入札に参加した数社のうち、どこが抽選に当たっても問題のX社グループが工事を担当する取り決めになっていた」。仙台市に本社のある建設会社の社長はこう憤る。問題のX社が落札可能性を高めるために行った工作とみている。
この社長によると数社とは、X社の子会社、震災後に県外から本社を移した会社、地元の土木会社などだ。どの会社が落札しても問題の会社グループが下請けで参加することになっていた。
 
「こんなやり方がまかり通れば、こうした会社とつながりのない地元企業はさらに受注機会が減って疲弊する」(先述した建設会社社長)。
『「震災以前から本社がある」を条件』
この事例のように、地元の建設業にとって競争激化の懸念要因の一つに、復旧・復興事業で急増した県外企業の存在がある。復旧が一段落した後も残り、通常の入札で参加することも少なくないようだ。
震災以降、宮城県の建設業許可業者数は増加傾向にある。復旧・復興需要を見据えて本社や営業所を県内に新たに構える会社が増えた。
 
下請け会社も含めて、全国から被災地に集まった建設会社は地元建設業にとって、適切なビジネスパートナーかどうか。それを見極めるために、信用調査会社などへの照会調査の依頼がかなり増えている。
 
自治体は一般的に、公共事業の入札で公平性とともに、地元建設業への配慮も盛り込む。しかし、入札参加資格の要件で『域内に本社がある』という制約を設けても、震災後に本社を移した会社と昔から地元に根付く会社とを区別できない。
 
あえて区別している自治体もある。多賀城市では13年度から、一般競争入札での参加資格要件に「震災以前から多賀城市内に本社、支店または営業所などを有すること」という文言を盛り込んだ。
 
同市総務部管財契約係によると、震災以降、営業実態が分からないような市外の会社参入力が増えたために資格要件で絞り込んだという。
『資金繰りに悩む被災地の会社』
復旧・復興の需要で、直近の12年度の決算ペースでは被災地の建設業はおおむね、売上高や利益は好調を保っている。だが、この傾向が長続きするとみる向きは少ない。例えば、12年度決算は資材や労務の単価高騰などの影響がまだ反映されていない。今後、その影響がじわじわと顕在化してくるとみられる。
東日本建設業保証が四半期に1度実施している被災地の景況調査によると、今までほぼ右肩上がりだった景気や受注総額の景況判断指数は、この3月で下落。収益の同指数についてはここ1年ほど減少傾向が続いている。
 
さらにこれから、被災地の建設会社を悩ます恐れがあるのは資金繰り。東日本建設業保証の調査によれば、宮城県内の建設会社は、資金の流動性を表す流動資産や当座資産が全国平均と比べてもかなり低い。自己資本比率も平均を下回っている。
「震災前は公共事業の削減が続き、内部留保が十分でなかった。復旧・復興で大量の工事を受注しているために、資金繰りが厳しくなっている」と東日本建設業保証宮城支店の西弘志次長はみる。
 
前払い金を受け取った後、発注者側の支払いが遅れていることも理由として考えられる。復旧・復興工事は設計変更が多く査定が難しいため、出来高の確定が遅れ、完成引き渡し後の精算までに、建設会社が立て替えせざるを得なくなるのだ。
被災地では発注ロットが拡大しており、10億円を超える大型工事が多数発注されている。5億円以上の工事の設計変更は、基本的に6ヵ月以上を要する議会承認案件となる。より支払いが遅れ、受注者を悩ますことになる。
『宮城県が今後の建設業振興を模索』
自治体も手をこまねいているわけではない。宮城県は、復興事業が一段落した後の建設業の生き残り策を模索。08年度から4ヵ年計画で始まり、震災後に事実上、宙に浮いていた「宮城建設産業振興プラン」を見直す形で1月末から検討し始めた。
「旧プランは、震災前の公共事業が激減するなかで考えられており、新分野参入やパートナーシップの構築が柱だった。震災を経て視点が変わることを加味して新しくプランを組み直す」と、県土木部事業管理課の相澤義光課長け説明する。プラン作成に向けた県と宮城県建設業協会との意見交換会では、災害対応を可能にした建設業の必要性を盛り込むようにという要望が上がった。
同協会の千葉嘉春専務理事は、「震災直後の緊急的な道路の啓開作業などは、協会会員で何とか対応できた。震災がもし2~3年遅かったなら、企業数はさらに減っていて対応できなかったはずだ」と説く。
◆不安6 福島の憂鬱
『原発事故が生むもう一つの人手不足』
慢性的な人手不足に悩む被災地。特に福島県では原発事故で、多くの社員が域外に避難してしまったという建設会社も多い。3年たった今も社員数は震災前の水準に戻っていない。除染作業に流れる人も多く、同県での復旧工事の人手不足は他県よりも深刻な問題だ。
「震災で多くの社員が離散した。何度も呼び集めはしたが、半年ほどたてば、避難先での生活基盤が整い、人間関係も構築されるため、戻って来ない社員も多かった」。
 
福島第一原子力発電所の事故で、避難指示区域にあった町に本社を構えていた建設会社の社長は、当時をこう振り返る。
同社はほかの地域に移転して事業を継続したが、社員は震災前の6割に減少。工事繰り越しの影響もあるが、2012年度の売上高は従来の10分の1ほどに落ち込んでしまった。
現在は、地元の避難指示解除準備区域などで発注され始めた工事を請け負って業績を立て直している。この会社は、震災直前時点で経営基盤に多少の余裕があったために大幅な受注滅でも立て直せたが、震災後に休業に追い込まれた会社も少なくない。特に下請け会社などにその傾向がある。
震災後、いわき市に事務所を移したある建設会社の社長は、「今まで懇意にしていた協力会社の社員が離散したり陣容が変わっていたりして、工事を依頼したいのにできない。そのため、新たな協力会社と仕事をしている」と話す。そうした協力会社とはまだ信頼関係が十分と言えず、工事がうまく回らないことも多々あるようだ。
『ベテラン世代が建設業から引退』
福島県の建設関係者が抱く不安は、岩手、宮城の2県でのそれと比べて、異なる点が多い。
 
福島県建設業協会の高木明義専務理事は、「原発事故による避難で全国に散らばった優秀な技術者や作業員が、避難先で採用されている。岩手や宮城と違った人手不足の問題が顕著に現れている」と説明する。高木専務も口にするように、福島で最大の不安要素は原子力事故に伴う影響だ。冒頭で紹介した「会社の移転」の背景にもつながっている。
 
そのほか、長い避難生活で働く意欲を失い、原発事故による補償金を目当てに建設業から引退するベテラン世代が増えている。他県では復旧や復興で大きな役目を担っている世代だけに、痛手であることは間違いないと言える。
『除染に流れる作業員』
他方、除染が始まって以降、それに関連した問題を囗にする人も増えている。例えば、高い日当に引かれた建設作業員が除染作業に流れてしまうことだ。職を鞍替えする若手作業員もいる。
 
「除染作業員大募集」。上に挙げた資料はいわき市内でまかれた求人広告の例だ。除染が始まって以降、広告には絶えず除染関連の募集が載っているという。
 
相馬市にある建設会社の社長は、「ただでさえ被災地の人手不足が懸念されているなか、特に除染に手を取られる福島県では、人手を確保するのがより難しい」と指摘する。
 
一方、除染現場から建設現場へ人手が流れるという逆パターンもある。バックホーの運転が要求される除染作業と一般的な土木作業が同じ能力でできると考えて、経験不足の重機オペレーターが除染現場から工事現場に鞍替えするケースだ。
 
土木工事をメーンとするいわき市の建設会社の土木部長は「せっかく人手を確保できたと思ったら、除染経験のある“にわか”の世話役と数名の作業員だった。作業員は全くの“素人”で、非常に効率が悪かったという印象が強い」と憤る。
 
図に示したように、除染の実施計画を作成している市町村は14年1月時点で36自治体に上る。それだけに除染が及ぼす影響力は大きい。
『除染ばかりでモチベーション下がる』
除染に特化して仕事を受注している会社も、不安は尽きない。
住宅の除染に携わる建設会社の工事係長は「今まで土木工事をメーンにやっていたのが、原発事故を機に、除染作業に比重を置かざるを得なくなった。庭の汚染土を掘り起こしたり住宅を高圧洗浄したりの繰り返しで、モチベーションは下がる一方だ」と嘆く。  
だが、除染を終わらせなければ復旧工事の段階に進めない地域が多く、泣く泣く除染をしているのが現状のようだ。
福島県は、岩手や宮城と比べて復興が2年遅れていると言われている。県の施策では、まずは除染中心で安全一安心を確保することが先決で、その次が復興だ。13年12月末時点で市町村の除染進捗率は、道路が3割、住宅は4割と先は長い。国直轄の除染も、まだ終わりは見えていない。
  
原発事故と除染による不安を解消して、ようやくほかの県が直面する復興の課題にたどり着く点で、福島県内の関係者が直面するハードルはより高い。 
『「業界の声」県境では宮城県への人手流出も』
「被災3県」とひとくくりに言われることが多いが、福島県は原発災害の影響を直接的に受けており、復興絡みの問題点は岩手や宮城と様相が異なる。
 
避難指示区域の指定を受けた場所にあった元請け会社は移転し、小規模な下請け会社は社員が離散してしまった。元請け会社は他の地域に仮事務所を構えても、下請け会社がいないと機能しない。そのため、まずは下請け会社の社員を呼び戻すことから始めなければならなかった。
  
避難指示が解除されて、住民が帰還するために復旧工事などが発注され始めた地域も出てきた。だが、まちの将来ビジョンが描かれていないため、避難した地元の建設会社は、戻るべきかどうか判断に困っているようだ。
  
最近は、技能者の賃金格差が問題視されている。型枠工の労務単価は宮城県が福島県よりも8000円近く高い。
 
県境の技能者は、仙台が通勤・通学圏なので、元々宮城県に出る傾向にあったが、労務単価に差が開いて流出がより顕著になっている。危険手当てが付く除染にも技能者が流れる傾向もあり、人手不足の問題は深刻だ。(談)

 

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