直接雇用、ルート変更、議論…究極の改善運動


日本企業の競争力の一つは、現場での業務改善力です。
トヨタの“カイゼン”は、世界的にも有名です。トヨタのカイゼンの神様と呼ばれた大野耐一氏の『鬼十訓』は、その精神を見事に表現しています。
第1訓 君はコストだ。まずムダを削れ。それなくして能力は展開できない。
第2訓 始めたらねばれ。できるまでやめるな。中途半端はクセになる。
第3訓 困れ。困らせろ。安易を好む人と決定的な能力格差がつく。
第4訓 ライバルは君より優秀だ。すなわち君は「今」始めることでのみ勝てる。
第5訓 仕事に痕跡を刻め。十割を命じられても十一割めを自前の知恵でやれ。
第6訓 平伏させず心服させろ。そのためにはだれより長い目で人を見ることだ。
第7訓 「できる」とまず言え。そこに方法が見つかる。
第8訓 失敗を力にしろ。真の自信も運もリカバリーから生まれる。
第9訓 労働強化を避けよ。人間「ラクになるには」に一番頭が働く。
第10訓 お客の叱声は成功の呼び声だ。逃すな。いじけるな。考え抜け。
今回の事例も、生産性を上げるため、直接雇用の推進、ダンプのルート改善、直行直帰を禁止して日々の改善ミーティングの実施等、まさに改善運動の見本です。
運搬回転率のアップを追求
堤防の腹付け盛り土工事(群馬県桐生市)
・ダンプや重機の不足が慢性化し、多くの土砂を扱う築堤工事で十分な台数を集められない
・積み込みの作業効率向上や運搬時間の短縮を図り、少ない台数で工事を終わらせた
2013年度末の工事の繁忙期にダンプトラックの不足に悩まされた現場は少なくない。関東地方は特にその傾向が強かった。被災地で復旧工事が始まって以来、東北地方からの出稼ぎによるダンプの流人は減少。築堤工事などの発注件数の大幅な増加が、不足傾向に拍車をかけた。
「今年は例年と比べてダンプトラックや重機が特に集まらなかった」。元請け会社から、土工や土砂運搬を主に請け負う細村建設(埼玉県東松山市)の土木部機械課の関根篤主任はこう振り返る。
 
細村建設は数多くのダンプトラックや重機を保有している会社だ。年度末に複数の現場を切り盛りするには、自社分だけでは足りず、協力会社に要請して手配している。
「近年は繁に期に1日最大100台以上のダンプが我々の現場で稼動していたが、13年度末は工事量が多かったにもかかわらず、最大で50台強しか確保できなかった」(関根主任)。
それでも細村建設は、ダンプトラックの不足を様々な工夫で補い、全ての工事を元請け会社から要求された工期内に終わらせた。その一つが、河本工業(群馬県館林市)から約7600万円で受注したH24元宿町地先堤防補強工事の現場だ。
土取り場から約1.2万㎥の土砂を運搬し、河川敷内の約549mに腹付け盛り土を施工する。細村建設が当初、元請け会社の工程をもとに見積もったダンプトラックの必要台数は15~20台。それに対して、実際に役人できたのは12~13台だった。
◆一度に積む量と運ぶ量を割り増し
想定よりも少ないダンプトラックの台数で、細村建設はどのようにして現場を回したのか。
 
渡辺将史営業課長からは、「作業効率を上げて、稼動するダンプや重機1台当たりの仕事量を増やした」というシンプルな答えが返ってきた。同社は元々、効率を上げるために他社とは異なる戦略を採っている。
 
例えば、自社保有のダンプトラックは全て12t積みだ。特殊車両通行許可が必要になるものの、一般的な10t積みと比べて車体が1.5m長く、1回の運送で積み荷の量は2割増す。元宿町の現場には、この12t積みを投入して作業効率を上げた。
さらに油圧バックホーには、車体の規格よりも大きなバケットを付けて1回の積み込み量を増やしている。例えば、規格が0.7㎥のバックホーには、バケット容量0.9㎥を装備する。
こうした使い方は法的に問題がないものの、熟練のオペレーターがいなければ効果を発暉できない。技能不足のオペレーターが、通常より大きいバケットを装備したバックホーを運転しても、不慣れなために緩慢な作業になり、逆に効率は下がる。転倒して事故を招く恐れもある。
オペレーターの不足が目立つ昨今、現場のタイミングに合わせて熟練者を手配するのは難しい。反面、細村建設は昔から直接雇用でその問題に対処してきた。最盛期よりも数は減ったものの、重機のオペレーター12人、ダンプの運転手15人を社員として雇用する。工程の厳しい現場や工事の要所で役人すれば、着実に効率を上げられる。
◆右折を回避するために搬出路を新設
少ない台数で仕事量を増やすため、運搬回転率のアップも欠かさなかった。1台に積み込む量が増えても、現場までの運搬回数が少なければ作業全体の効率は落ちかねない。土取り場は一般的に発注者が指定するため、運搬距離は決まっている。細村建設が重視したのは、最短距離ではなく最短時間だ。同社は元宿町の現場で、市街地を通る7~8kmの運搬ルートを見直して、約2km延びるものの、信号の少ないルートを提案。運搬時間を縮めた。
さらなる時間短縮のために土取り場の搬入出路にもこだわった。元々、搬入出路は一つしかなく、土取り場に左折で入って、右折で出ていく想定だった。
「現道に右折で出れば、対向車待ちに伴って一般道の渋滞を招くリスクが高い」と、渡辺課長は説明する。渋滞を招けば後に続くダンプトラックほど渋滞の影響を強く受け、運搬時間が延びる。そこで、細村建設は左折で現道に出られる搬出路の新設を提案した。
運搬ロスに直結する細かいリスクを一つずつ洗い出して改善すれば、1回の運搬当たり数分の時間短縮になる。たとえ数分でも、1日の運搬回数分を掛ければ、数十分の短縮につながる。元宿町の現場では、当初の計画では1日当たり往復5回の運搬が限度だったが、工夫を凝らして6回に改めた。1日1回の運搬回数増が、少ないダンプで仕事をこなすための重要な分岐点になった。
◆直行直帰をさせず会社で議論
日々の現場作業でも、常に効率アップを追求する。細村建設は、オペレーターと配車の責任者らによる作業後の打ち合わせを日課にしており、オペレーターの現場への直行や現場からの直帰を認めていない。元宿町の現場では、毎日1時間半掛けて会社に戻って来させた。
必ず会社に戻らせるのは、その日の作業報告を義務付け、効率の良い作業方法について議論するためだ。ダンプトラックの走り方から、バックホーの積み込み角度やすくい方まで、効率の良い方法を追求する。
元宿町の現場でも打ち合わせから効率の良い提案が生まれた。当初、敷き鉄板の上をダンプトラックが走り、降ろした土砂をバックホーでならした後にブルドーザーで整地する予定だった。しかし、盛り土材が想定よりも良質だったため、敷き鉄板は不要と判断して工法を変更。ダンプで自走して土砂を降ろした後、ブルドーザーで直接、整地した。
敷き鉄板の設置・撤去のほか、バックホー1台とそのオペレーター1人の手配が不要となり、施工コスト削減につながった。
改善とは地道な日々の取り組みであり、現場を隅々まで把握していないと実現できない活動だと、まさに実感させられるケースです。